土器を実測し、西さんを想う

 現場から帰り、終礼も終わり、一息ついてから今度の年報に報告する予定の土器の実測を始める。

 やんごとなき事情から、再来週だっけな?、のサポーターさん講座の奈良時代の土器の話を担当することになってしまった。実測しながら、注記を終えたところなどで話の中身を考える。

 

 ふと、気になったことがあり、西弘海著『土器様式の成立とその背景』を手に取る。keynoteに本文中に掲げられている図を取り込もうと思って、その図がいつ作られたのかをみてみると、西さんが27歳の時だった。この本は、大学1年の時に始めて研究室に行った時に、購入希望者を募る紙が貼ってあって、訳もわからず(誠に失礼なことですが)買った、大学に入って最初に買った専門書。以来、どういう訳か奈良時代の土器に関わることになり、これまで事あるごとに開いてきた本だけど、西さんがその文章をいつ書かれたのかをあまり気にしたことはなかった。亡くなったのが38歳とあり、その年齢をとうに超えてしまった現在の自らとの違いに愕然とするとともに、改めて、今生きておられたら、との思いを抱きました。

 新しい資料が見つかっていて、見直す点はあるだろうけれども、基本線はこの本にあると言っていいと思う。代表作といっていい「土器様式の成立とその背景」に僕は小林行雄先生の同笵鏡の理論の影響を見てしまいますが、土器で歴史を語ることができることを示した作だと思う。器名の論文、奈良三彩の造形意匠の論文、しばらく読みすすむうちに僕なんかの話より、この本を読んで欲しい、僕の話がそのきっかけになればいいと思った。

 「聖典」にするつもりはないし、おそらくは西さんもそういうことは望まれていないと思うけれど、この著作集に挑んでいくことが不遜ながらも後に続く(続いていきたいと思う)人間に科せられた課題のようにと思いました。

 そんなこんなで土器は2個しか書けず。でもいいやとおもえた時間がすごせたことも事実。また来週がんばろうっと。